今から一年ほど前、スペインへ旅行した際に、訪れた世界遺産の数が100ヶ所を超えました。訪問国は40数ヶ国です。100ヶ所に行ったからと言ってとくになにがあるわけでもないのですが、区切りのいい数字ではあるし、世界遺産検定ホルダーでもあるので、これまでに見てきた中から、個人的に好きな世界遺産のランキングを作ってみました!
*注意:長文かつ、画像多めの記事です。
目次
- 城・宮殿編
- 遺跡編
- 街並み編
- 芸術編
- 自然・景観編
ランキングですが、上記のカテゴリごとに、Top3を選ぶ形としました。最初はTop5にしてたんですが、あまりに文字量が多すぎるので減らしました(笑)。当然好きな遺産ばかりなので、つい長々と書いてしまいました。ご興味のあるカテゴリだけ読んでみたり、写真を眺めていただくだけでも楽しんでいただけたら嬉しいです。機会があったらぜひ現地に行って見てください!
また、記事の終わりの方では、どうやって格安で旅行しているのかについても触れています。最近はマイルを使ってほぼ無料で旅行しているので、そうした方面に興味のある方はご覧になってみてください。ではランキングにいってみましょう!
目次
おすすめ世界遺産ランキング 城塞・宮殿編
第一位 城塞の街カルカソンヌ
正式名称:歴史的城塞都市カルカソンヌ
所在地:フランス・カルカソンヌ
おそらく日本では同名の名作ボードゲームの方が有名な城塞都市、南仏にあるカルカソンヌです。きらびやかな宮殿よりはゴツゴツとした城塞が好きなので、中世の城がそのまま保存されているカルカソンヌにはぜひ行ってみたいと思っていました。また、子供の頃からミステリーが好きでよく読んでいたのですが、笠井潔の傑作哲学推理小説『サマー・アポカリプス』の舞台ということもあって、興味があったのです。
城壁の内側に旧市街が残っている街はヨーロッパにはごまんとありますが、カルカソンヌは新市街からすこし距離を置いて、丘の上に城塞が中世そのままの姿で鎮座しているのが特徴かと思います。陳腐な表現ですが、ドラクエのお城(とくに初期の)そのままのイメージと言えばいいでしょうか。 街中も狭い石畳が続き、まさに中世に紛れ込んだような錯覚を覚えます。こういうところをぐるぐると歩いているだけでも至福なので、いくらでも時間がつぶせます。
二重に築かれた城壁、そこここに建つ見張り台や尖塔。この塔がね、『サマー・アポカリプス』では大きな役割を果たすのですが……! ミステリー好きな方はぜひ滞在中に読んでみてください。かなり分厚い作品ですけど。
サマー・アポカリプス (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
- 作者: 笠井潔
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1996/03
- メディア: 文庫
- 購入: 16人 クリック: 241回
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日本からフランスへの窓口というとまずはパリになりますが、カルカソンヌは南仏なのでかなり離れています。意外と、国境を越えたバルセロナを起点にすればカルカソンヌへ行くのもそれほど難しくないので、城壁好きな方にはぜひ訪れていただきたい世界遺産です。
わたしは学生時代にここを訪れたのですが、とくに若い人におすすめしたいポイントとしては、城塞内部にあるユースホステルに泊まれる点があります。世界遺産の中世城塞に泊まる機会なんて、めったにあるものではありません。あとはドイツのニュルンベルクで同じように城ユースホステルに泊まった記憶があります。余談ですが、総じて北ヨーロッパのユースはレベルが高いですね。とはいえイタリアやスペインのユースではワインが飲み放題だったりするので、お酒好きの人にはそちらの方がよいかも。
第二位 中華世界の中心・紫禁城
正式名称:北京と瀋陽の明・清王朝皇宮
所在地:中国・北京
明・清と、中華帝国の皇帝が握った富と権力をまざまざと見せつけられるのが、北京にある紫禁城です。別名は故宮。 明の永楽帝が築き、中国史上に残る名君の康熙帝だけではなく、西太后、そして“ラスト・エンペラー”愛新覚羅溥儀が住まった禁城です。
まぁとにかく広い! 紫禁城の北側にある景山公園に登ると、小さな町であればすっぽりと収まってしまうであろうその広大さが実感できます。実はその景山公園は紫禁城をめぐる堀を掘った際に出た土を盛って造ったもの。なんというか、やることがいちいち豪快ですよね。紫禁城では風水にのっとって、北端に皇帝の居城があり、そこへ直接悪い気が入ることを防ぐために築かれたのが景山公園とされています。背山面水の理論ですね。
紫禁城自体、世界で最も綿密に巨大な風水的呪法が張り巡らされています。こうした思想は日本の都作りにも当然大きな影響を与えているのですが、この辺、『帝都物語』とか好きなのでわくわくします! その手のオカルトは微塵も信じてはいないんですが、話としては面白いですよね。紫禁城の英語名”forbidden city”も実に厨二心をくすぐる名前となっています。
紫禁城の広さは725,000平方メートル。東京ドーム15個分の広さです。すべてが均整をとれた左右対称の城。もっとも重要な国事行為の場であった大和殿の前は大きな広場になっていて、どことなくガランとした印象も受けるのですが、そこに廷臣や宦官、兵士がずらりと並んでいたさまを想像すると圧倒されてしまいます。
まさに『ラスト・エンペラー』の一シーンです。紫禁城を巡りながら、坂本龍一のテーマ曲を聴くというベタベタな体験はぜひみなさんにお勧めしたいところです。もちろんメインテーマもいいですが、”Rain”が個人的には好みです。
第三位 幻想のアルハンブラ
正式名称:グラナダのアルハンブラ、ヘネラリーフェ、アルバイシン
所在地:スペイン・グラナダ
スペインのグラナダにありながら、名前の響きからしてエキゾチックな印象を与えるアルハンブラ宮殿。つい一年ほど前に訪れたので比較的記憶に新しい場所です。まず、猫がかわいいです(そこかよ)。世界遺産を住処にする猫ちゃん、贅沢。
訪れたのはシーズンオフの12月末で、地中海沿岸のスペインとはいえ、けっこうな冷え込みでした。寒暖の差があると霞が出やすいものですが、早朝の靄を通してうっすらと確認できる丘の上のアルハンブラは物語の舞台のようでした。19世紀に宮殿に住み着いたアメリカ人作家が著した『アルハンブラ物語』を読んでいたので、余計に幻想的な印象を受けたのだと思います。アルハンブラを舞台に、真実とも夢物語ともつかないような様々な逸話が語られる名著です。
- 作者: W.アーヴィング,Washington Irving,平沼孝之
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1997/02/17
- メディア: 文庫
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悲劇的な話も多いです。ヨーロッパでありながらイスラムが長らく統治し、レコンキスタと権力闘争の果てにイベリア半島でアラブ勢最後の砦となって、ついには落城した激動の歴史の反映なのでしょう。城内には惨殺の間などが残っています。
宮殿が広がる丘の対面には、もうひとつの丘アルバイシンがあり、その谷間にグラナダの街は広がっています。狭くて急で、入り組んだ街並をさまよい歩くのもグラナダの魅力です。というか、スペインの各地方がそんな感じなのですが。路地歩き大好きなので、楽しかったです。一角にはアラブ人街もあり、かつてのイスラム統治時代を思い起こさせます。
そして夕暮れ時にアルバイシンの頂上にいけば、人が鈴なりになっています。観光客が大好きなものといえば、朝焼けと夕焼け。紅く焼けた西の空から、暗い紺色に沈むアルハンブラの姿。今でも忘れられない光景のひとつです。
もうひとつ忘れられないといえば、アルハンブラ内のカフェに、世界各国から訪れた要人の写真が貼ってあったんですよね。オバマ大統領夫人とか、ガリ元国連事務総長とか。日本人の写真もあったので「お、やっぱり皇族の誰かかなー」と思って見たら……伊東四朗さんでした。伊藤四郎さんとテレビ朝日のスタッフさんたちでした。日本の代表が。日本政府は早く誰かグラナダに送らないと、日本のイメージがおかしなことになる。
おすすめ世界遺産ランキング 遺跡編
第一位 世界遺産の頂点アンコールワット
正式名称:アンコール遺跡
所在地:カンボジア・シェムリアップ
▲バイヨン。今までに撮った写真のなかで一番気に入っているもののひとつです
遺跡だけではなく、今までに訪れた全世界遺産の中で、堂々の総合一位を座を占めるのがアンコールワットです! 東南アジア三大仏教遺跡のひとつでもあり、残りのふたつ、ミャンマーのバガン遺跡とインドネシアのボロブドゥール遺跡にも行ったのですが、アンコールワットが頭3つくらい飛びぬけています。まさに至宝です。
宇宙を表現したとされる遺跡や建築物は世界各地にありますが、その規模と壮麗さにおいてアンコール・ワットとアンコール・トムに勝るものはまずないと言ってよいのではないでしょうか。アンコール・ワットでヒンドゥー神話が刻まれた回廊をぐるぐると巡ったり、アンコール・トムで巨大な観世菩薩像の顔に見守られながら、迷路のように入り組んだ階段を上り下りすると、遺跡が持つ深遠な世界に吸い込まれていく気がします。
アンコールワットといえば、たいていはこのふたつ、アンコール・ワットとアンコール・トム(バイヨン)を指すことが多いでしょう。両者はわりと近くに位置しています。駆け足なら、遺跡のメイン部分を1日で回れなくはないでしょう。しかし、それではあまりにもったいないです。一言でアンコールワットといっても、実際は広大な森にいくつも点在する遺跡群のことを指します。
メジャーな回り方としては、大回りコースと小回りコースのふたつがあり、それぞれ3~4時間ほどかかります。個人旅行の場合はタクシーかトゥクトゥクをチャーターしましょう。近郊の街シェムリアップにあるホテルの前にいくらでもたむろしています。わたしの場合は小回りコース一回、大回りコース一回をそれぞれ別の日にまわって、さらに近郊のバンテアイスレイ遺跡などを訪れました。
正直言うと、さすがに三日もかけていくつも遺跡を回ったら、最後には飽きてしまうだろうな、と思っていました。「アンコール・ワットとバイヨンはともかく、ほかはだいたいどれも一緒なんじゃないの?」と。すみません、身の程知らずもいいところでした。それ以外の遺跡は、もちろん規模こそそれほど大きくはないのですが、どれも特徴や立地が異なっており、十分に楽しむことができました。このバラエティの豊富さもアンコール遺跡の魅力だと思います。ひとつひとつがボロブドゥールにせまる規模だったりするので。
繊細な彫刻が刻まれたバンテアイ・スレイ寺院。周辺遺跡のなかでは一番印象に残っています。紅い土と石で作られた寺院が実に美しかったです。
第二位 金字塔・ピラミッド
正式名称:メンフィスとその墓地遺跡 – ギザからダハシュールまでのピラミッド地帯
所在地:エジプト・カイロ
やはり世界遺産おすすめランキングと言えば、この遺跡を入れないわけにはいきません。現存する唯一の「世界の七不思議」ですからね。これほどのものがなんのために作られたのか、誰がどうやって作ったのか、文字があったにもかかわらず経緯や背景が失われているというのも歴史のおもしろいところだなぁと思います。宇宙人が作ったに決まってるじゃんね。
予断ですが「世界の七不思議」の「不思議」は”wonder”の訳であって、「すごい」とか「驚異的」という意味なので、「謎の建造物」というのとはちょっと違います。そしてピラミッドのことを日本ではかつて金字塔と呼んでいたそうです。
ところで、みなさんご存じないと思いますが、実は、ピラミッドって大きいんですよ? あ、知ってましたか。まぁたしかに、高層ビルなんて見飽きてるし、高い建造物なんていまさら、なんとも思わないですよね?
ただピラミッドの場合、横にもでかいんです。これが違う。縦にも横にも、さらには奥にも続く巨石の連なり。重量! 質量! そんな圧倒的な存在感があり、バックの砂漠と相まって、SFっぽささえ感じます。先ほど冗談で「宇宙人が作った」と書きましたが、宇宙基地だとか、傷を癒すピラミッド・パワーだとか、そういった怪しい説も「ひょっとしたらありえるかも……」とちょっと思ってしまう異様な建造物なのです。ピラミッドの前にちょこんと座っているスフィンクスは、あれ宇宙人のペットです。
ピラミッド群の手前にある駐車場からピラミッドまでは、ちょっとした坂道になっているのですが、そこをラクダに乗って登ることができます。雰囲気あるな〜、と思ってひとりで乗ったらラクダ使いの兄ちゃんがめちゃくちゃ走らせやがって、死ぬほど怖かったです。乗馬したり、同じく世界遺産のルアンパバーンでゾウ使いの資格も取ったわたしですが、坂道を走るラクダほど怖い乗り物はなかったですね。ゾウはのそのそ歩くし、両手を突くところがあるので、落ちる恐怖はあまり感じません。
ゾウ体験記はこちら
ピラミッドの内側は、実はあまり見るべきところはありません。細く暗い通路をあがっていくと、最奥部の玄室に到達します。質素な石棺こそありますが、そのほかはガラーンとしています。一般にイメージされる古代エジプト王家の墓といえば、鮮やかなヒエログリフが壁に刻まれて、ところせましと並べられた金銀財宝の奥にミイラが眠る、といった感じですが、残念ながらカイロでそういったものが見たければ美術館に行くしかありません。この部屋の装飾は腐蝕して失われたのではないか、という説もあるそうです。
とはいえずっと屈んだままでなければ通れない細い階段など、冒険気分は盛り上がります。自分をインディ・ジョーンズだと思い込ませましょう。自己暗示、大事。ちなみに禁止されているにもかかわらず、ピラミッドの頂上に行く旅行者がかつては絶えなかったそうです。風に飛ばされて落下したり、ようやく頂上に着いたらその場で強盗が待ち構えていたりと、散々な目にあった旅行者も多いらしく、おすすめできるものではありません。
第三位 アジャンターとエローラ
正式名称:アジャンター石窟群、エローラ石窟群
所在地:インド・マハラーシュートラ州
アジャンターとエローラは本来別々の遺跡なのですが、比較的近くにありますし、たいてい両方を訪れる人が多いでしょうから、まとめてしまいました。首都デリーやタージマハールのあるアグラからはかなり南に下がり、商都ムンバイ(旧名ボンベイ)から行くルートになります。
By Indischer Maler des 7. Jahrhunderts, via Wikimedia Commons
さてまずはアジャンター。世界史の教科書の扉絵なんかにはよく載っていますが、大変繊細で、どこか蠱惑的な目つきをした菩薩の壁画が残っています。今までに観た絵のなかでもとても印象に残っているもののひとつです。もちろん、ここに来なければ見ることはかないません。
インドといえば仏教発祥の地ですが、ヒンドゥーやイスラムが最多の信者を抱えるのはご承知のとおりです。発祥の地にしては、仏教は少々影が薄いのです。インド仏教徒の代表を今は日本人が勤めていて、それはそれでおもしろい話なのですが、ここでは省略。そんなインドで、これだけ大規模な仏教遺跡を見られるというのが面白い所でもあると思います。
By Freakyyash via Wikimedia Commons
アジャンターでは500メートルにわたって、崖をくりぬいて作られた石窟が30あまり並んでいます。いつの間にか森の奥深くに沈み、忘れられていた石窟が発見されたのは、マハラジャに招待されて虎狩りをしていたイギリス人が、大きな虎に襲われて逃げ込んだのがきっかけでした。もう映画とかゲーム化しちゃいないよ、という感じのストーリーですよね。わたしもいつか野良ネコから逃げて、世界遺産のひとつでも発見したいものです。
続いてエローラ。こちらも沢山の石窟があるのですが、カイラーサナータ寺院がその代名詞のようになっています。実際にご覧ください。
By Pratheepps (Own work) , via Wikimedia Commons
この遺跡のなにがすごいかというと、組み立てた訳ではないのです。おわかりでしょうか。巨大な岩盤を掘り進めて、この形にしたんです。つまり継ぎ目は一切ない。その執念。その技術。途方もないものがあります。そう言われないと、単なる高層建造物にしか見えないほどの大きさです。左下の人影と比べてみてください。高さは実に30メートル以上あります。完成まで100年を超える歳月を投じて、掘り出された岩は20万トンに達するそうです。最後の方まで掘り進めて「ポキッ(あっ)」みたいなことになったらどうするんだろう……と考えているわたしのような人間では悟りを開けません。
エローラ最初期の石窟は仏教徒によるものですが、時代を経るにつれて、ヒンドゥーやジャイナ教の石窟にとって変わったのが、アジャンターと違うところです。カイラーサナータ寺院も、シヴァ神が住処としたカイラス山をモチーフにしています。まぁ、それは仏教では大黒天と須弥山に相当するので、まったく無関係というわけではないのですが、連綿と続く宗教と信仰の変遷がリアルに感じられます。
それとエローラの周辺には猿があちこちにいてなかなかかわいいです。愛想はむちゃくちゃ悪いですけどね(笑)。ヒンドゥーではハヌマーンをはじめとして猿は尊崇の対象なので態度でかいです。ついでに、デリーやガンジス川沿いの聖都バラナシなんかでは野良牛をよく見かけました。なにが言いたいかというと、牛の落し物があちこちにあるので、歩くときは下を注意!
おすすめ世界遺産ランキング 街並編
第一位 沈みゆく都・ヴェネツィア
正式名称:ヴェネツィアとその潟
所在地:イタリア・ヴェネツィア
あちこちの国に行きましたが、「こんな街が存在するのか」、そう思わせてくれる他に類を見ない水の都・ヴェネツィアです。もちろん、知らない人はいないとは思います。縦横に水路が張り巡らされて実に楽しく美しい街ですが、ヴェネツィアのおもしろさというのはそれだけではなく、地中海世界に覇を唱えた都市国家としての歴史にもあります。
またそれが君主をいただいた封建的な国作りによるのではなく、共和制を敷いて、強力な東ローマ帝国やオスマン帝国に伍していたというのが、なんとも魅力的なのですよね。それも武力のみに頼るのではなく、スパイを方々に送りこんで情報戦で先手を取ったというのがいかにも商人の戦いらしくて好きですね。
そうした過去の栄光を象徴するのはパラツォ・ドュッカーレとサン・マルコ広場です。まぁ、サン・マルコ広場は鳩があまりに多すぎてけっこう憂鬱だったんですが……(鳥とか鳩、苦手なもので)。
わたしは残念ながら見たことがありませんが、毎年2~3月には、サン・マルコ広場を中心に、仮面仮装大会が開かれます。洒脱に過ぎて、わたしなどは仮面の下で顔が真っ赤になってしまいそうですが、ただでさえ街全体が映画のセットのようなヴェネツィアのカーニバル、一度は参加してみたいものです。夜になればひときわ幻想的でしょうね。
ヴェネツィアの富がもっとも集中していたそれらの中枢エリアを離れると、観光客もいくぶん数が減り、迷路のような水路沿いを歩くのが楽しいです。細い運河が縦横に張り巡らされたヴェネツィアの特徴として、自動車も自転車も原則許可されておらず、徒歩での散策が基本となるので、散歩好きにはぴったりの場所でしょう。400を超える橋も歩行者専用なんです。
一方、当然のことながら船は重要な交通手段となっています。水上タクシー、水上バスなどなど。ゴンドラに乗るのはあまりにもべたですが、ここまで来たらぜひ乗っておきたいですね。船頭さんの歌は「ん~、いらない」と正直思いましたが(笑)、水路から眺める街はまたおもしろさがあります。ただ、夏場になるといささか水が匂うこともあるので、その点では気温が落ち着いたあたりが一番おすすめです。
ヴェネツィア本島の中心部を、カナル・グランデと呼ばれる大きな運河がつらぬいており、規模の大きな船が通るのはまさに壮観です。渡り船で本島を離れた周辺の島々も時間があったらぜひ訪れていただきたいです。とくにムラーノ島は、有名なヴェネツィアン・グラスの本場で、工房を見るのもおもしろいです。とはいってもわたし自身は旅先でおみやげの類はほとんど買わないんですけどね……重いし……。
第二位 東ローマ帝国を守った壁
正式名称:イスタンブール歴史地域
所在地:トルコ・イスタンブール
ヨーロッパとアジアの結節点、イスタンブール。名前の響きだけでもご飯何杯もいける世界遺産好きの聖地のひとつだと思います。古くはビザンティウム、コンスタンチノープルと呼ばれ、世界遺産としての構成要素は次の4つからなっています。
1. 遺跡公園地区
2. スレイマニエ・モスクと付属保護地区
3. ゼイレク・モスク(旧パントクラトール教会)と付属保護地区
4. イスタンブール大城壁地区
トプカプ宮殿やアヤソフィアを中心にした「1.遺跡公園地区」がやはりイスタンブール観光の華だと思います。今さらここで説明する必要もないでしょう。メデューサのさかさまの頭部がある地下宮殿も有名ですね。
それらメジャーな世界遺産を紹介しているところは他にたくさんあるでしょうから、わたしがあえて取り上げたいのは、「4.イスタンブール大城壁地区」です。「また城壁かよ」の声は無視してつづけますが、個人的に忘れがたい旅行体験を得られた場所なんです。どこかへ旅行する際にはその地を舞台にした本や映画を鑑賞することが多いのですが、トルコ旅行の際にもある本を携行していきました。それがこちら。
『ローマ人の物語』が代表作となった塩野七生ですが、それよりずーっと前に書かれていた歴史戦闘ものはめっぽう面白いのですよね。歴史書というよりは、多分に歴史小説なので、脚色が強いからこその面白さとも言えるのでしょうが、『ロードス島攻防記』『レパントの海戦』を読み終え、イスタンブール行きにそなえてとっておいた『コンスタンティノープルの陥落』に飛行機のなかでとりかかると、機内消灯時間になっても黙々と読み続けてしまいました。
東ローマ帝国を滅亡の淵から救わんとする皇帝コンスタンティノス11世と、大胆かつ狡猾にコンスタンチープルを攻め落とそうとするオスマン帝国のメフメト2世の対決。これに諸外国の将兵や大使それぞれの思惑がいりみだれて盛り上がるのですが、そのなかで再三出てくる大城壁が、イスタンブールの街はずれにまだ残っているんです。
▲ここは修復された箇所
それを見た時の思いは今でも覚えています。感動とも感慨とも違う、なにか時空を超えた巨大な人間の歩みのようなものを感じた、そんな瞬間でした。歴史好きの方は、塩野作ではなくとも攻防戦について読んでから、ぜひぜひ訪れていただきたいです。
イスタンブールだけではなく、旅行全般に言えることなのですが。とくにこうした古い歴史のある街や国を訪れる際には、その土地を舞台にした本や映画、音楽等を旅行に取り入れてはいかがでしょう。知らなければ見過ごしてしまうような歴史のかけらがいろんな所に潜んでいることに、きっと気づくことができます。イスタンブールということでもうひとつあげれば、オルハン・パムクの『わたしの名は赤』がおすすめです。
- 作者: オルハンパムク,Orhan Pamuk,宮下遼
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/01/25
- メディア: 新書
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第三位 迷宮都市フェズと青の町
正式名称:フェズ旧市街
所在地:モロッコ・フェズ
一日に五回、礼拝をよびかけるアザーンが流れると、「ああイスラム圏に来たんだな」と感じます。といっても、純粋なイスラム国と呼べるようなところはモロッコ以外ではトルコ、エジプトくらいしか旅行したことがないのですが。あと一応インドネシアとか。
モロッコに来て、それらの国とまた違うなと感じたのは、アザーンが流れると道端で一斉にメッカにむかって礼拝する人たちがとても多かったことです。モスクや礼拝所でもなく、あれだけの人々が路上で礼拝するのはほかに見たことがありませんでした。ちなみに、アザーンってあくまで礼拝の呼びかけであって、コーランを読み上げてるわけではないんですよね。
ところでわたしが旅行先で好きなものがふたつあって、ひとつは市場、ひとつは路地裏歩きなんです。スーパーや流通体制が世界最高レベルに発達している東京に住んでいると市場なんてほぼ行く機会がありませんが、まだまだ市場が日々の買い物の場所として機能している国は多いです。市場を見ているとその国の胃袋がわかるし、食べ物がいっぱいあるところを見てるだけでなんだか元気になるんですよね。なんなら東京のデパ地下だけでもウロウロしていると楽しいですし。
その点、フェズは道が無茶苦茶入り組んでおり、どこも同じような通りで見分けもつかず、あちこちに物売りの露台があって、すごく楽しかったです。そして上の写真のように、染料や皮なめしなど、さまざまな手工業が盛んなので、見ていて飽きません。街全体が巨大な市場みたいなものです。
ただ、本当に迷います。方向感覚はけっこういい方だとは思うのですけど。モロッコに行ったのはだいぶ前で、まだスマホでグーグルマップを見て歩くような時代ではなかったので、太陽を見て方角を把握していました。声をかけてくる人も多かったですね。偽ガイドとか物売りとか、うさんくさい輩ばかりでしたけど(笑)。
もうひとつ、フェズからバスで半日ほど行ったところにある青い町シュウェンもおすすめです。小さな町なのですが、鮮やかな水色に染められた街並みは実に涼しげで、地元の人々やベルベル人が着ている民族衣装が、いっそう映えます。部屋の内装まで青で統一されているところまであって、ここで暮らしたらどんな気分だろうかと思いました。地中海を越えたアンダルシアにある白い町と同じように、強烈な太陽光をはねのけるのが目的なのでしょう。
地中海といえば、モロッコへの変わった行き方として、スペイン南部もしくは英領ジブラルタルから船で地中海をわたる方法が楽しいですよ。自然のイルカがぴょんぴょん船の横をついてきてくれました。もっとも、むちゃくちゃ荒波で酔いましたけど……。時間がなければ、タンジェくらいならスペインから日帰りも可能です。
おすすめ世界遺産ランキング 芸術編
第一位 モザイクに彩られた古都ラヴェンナ
正式名称:ラヴェンナの初期キリスト教建築物群
所在地:イタリア・ラヴェンナ
西ローマ帝国や東ゴート王国が首都を置いたイタリア中部の町、ラヴェンナ。ヴェネツィアとフィレンツェの中間に位置しています。イタリアといえば世界遺産保有数世界第一位を誇る国です。さすがはローマ帝国発祥の地ですね(ちなみに第二位はスペイン、第三位は中国)。ローマやヴァチカンを筆頭に、めまいがするほどの歴史的・宗教的資産を有しています。
それとくらべると、いくら西ローマの首都だったとはいえ、古色蒼然としたラヴェンナの赤茶けた家々は、歴史に取り残された街のような印象を受けます。実際、8世紀末以降、ラヴェンナは急速に政治的重要性を失い、歴史の表舞台から消えていきました。また、経済的地位の没落により建物の建替えが進まなかったことが結果的に功を奏し、古代の街並みがそのまま残されています。
それほど広い街ではありませんし、定番ルートのミラノ-ヴェネツィア-フィレンツェ-ローマ-ナポリからは外れていることもあって、観光客がそこまで押し寄せる場所ではないことも、どこか寂しいを受ける原因かもしれません。しかしわたし自身にとってそれらメジャーな観光都市よりも心に残ったのが、このラヴェンナでした。この世界遺産ランキングのなかでも、ひときわ忘れがたい遺産のひとつです。
By Petar Milošević (Own work) [CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
ラヴェンナのハイライトは、モザイクに彩られたサン・ヴィターレ聖堂(Basilica di San Vitale)です。内陣には、世界史の教科書には必ず載っているユスティニアヌス1世と随臣の姿を筆頭に、美しいモザイク壁画が飾られています。
By Petar Milošević (Own work), via Wikimedia Commons
もともとモザイク画が好きなので、タイルを用いたポルトガル風の装飾など好みだったのですが、ラヴェンナのそれはまさに圧巻というべきか、言葉を失う壮麗さでした。といって、モザイク画特有の デフォルメによって親しみやすい雰囲気もあり、決して古めかしいだけの、堅苦しい壁画にはなっていません。
サン・ヴィターレ聖堂のほかにも古代遺跡は点々と残っており、いずれも典雅なモザイク画に彩られています。とくにガッラ・プラキディア廟堂は、大変印象に残っている小さな霊廟です。紺色の背景に金の星星がちりばめられたこのヴォールト内陣の美しさ!
By Petar Milošević (Own work), via Wikimedia Commons
しかもこの小さな霊廟の窓は、琥珀を薄く切った明り取りなのです。琥珀色の光で満ちた小さなモザイクの霊廟。ヨーロッパ全域に数多存在する教会や聖堂のなかでも、決して忘れることができない場所のひとつです。
第二位 バチカン、富と権力と信仰と
正式名称:バチカン市国
所在地:イタリア・ローマ
もはや説明は不要だとは思うのですが、世界最大の大聖堂サン・ピエトロを擁するローマ・カソリックの総本山、バチカンです。カソリックの富と権力の中枢であり、ヨーロッパの精神世界に君臨した聖座、ホーリー・シーです。文物財宝と絢爛な施設はそこらの王国など及びも付かないものがあります。
システィーナ礼拝堂のミケランジェロ作『最後の審判』と『アダムの創造』はあまりにも有名ですね。新法王を選出するコンクラーベがおこなわれる場所でもあります。単なる個人的な感想ですが、コンクラーベのように「選挙に勝ち抜いたから」という理由でただの一般人(まぁ一般人ではなく枢機卿だけど)が突然現人神のようになるというのは不思議だなと感じます。ダライ・ラマのように生まれながらの聖者というなら受け入れやすいと思うのですが、その辺どうなんでしょうね。同じキリスト教でも、プロテスタントや正教会では教皇権の根拠が認められていませんが。
そういえば、システィーナ礼拝堂ではさかんに「写真禁止です」というアナウンスが各国語であるのに、あちこちでぱしゃぱしゃ撮っている人たちがいて悲しかったです。
ところで、個人的にミケランジェロの手になるものとしては、サン・ピエトロ大聖堂にある『ピエタ』の方が好きです。柔和で凛としていながら悲痛さが伝わってくる美しい彫刻でした。サン・ピエトロの、ねじれた柱が印象的な大天蓋もミケランジェロがデザインしたもので、その下には聖ペテロが眠っているとされています。
大聖堂はとにかく贅の限りを尽くした宗教モチーフが濃密な空間ですが、天井が非常に高いので、圧迫感を覚えるようなことはありません。人類の歴史上もっとも発達して、豊かな暮らしをしているわたしたちですら圧倒される大建築ですから、何百年も前の人々からすれば、まさに神の御業に見えたことでしょう。
クーポラ(ドーム)の上にあがると、バチカンとローマ全域を見下ろすことができます。意外とここは素通りされることが多いようなので、ぜひ登ってみてください。長らく世界のひとつの中心であった歴史そのものが感じられます。永遠の都とはよく言ったものです。
第三位 絶対権力者:猫とプーチン
正式名用:サンクトペテルブルク歴史地区と関連建造物群
所在地:ロシア・サンクトペテルブルク
ロシアの京都に当たるサンクト・ペテルブルクといえば、世界三大美術館のひとつ、エルミタージュ美術館があることで有名です。まぁこの三大ホニャララというのはどれもうさん臭いんですけどね……個人的にはマドリードのプラド美術館が一番好きです。ともあれ、エルミタージュもエカテリーナ2世が自らのために建てた、大変美しい美術館であることは言うまでもありません。とくに冬宮は、あざやかな水色の外壁が高貴な雰囲気を作り出しています。
エカチェリーナ2世統治下の18世紀だけでなく、19世紀の印象派作品に至るまで、見事なコレクションを揃えています。とくにセザンヌが好きなのでじっくり見ました。その全所蔵数は300万点に及ぶとされています。全部見るのにどれだけの時間がかかるのでしょうか。それらの展示に加えて、今回ランキングに入れた理由は……猫です(またか)。
実はエルミタージュでは、ネズミ対策のために公式に猫を雇っているんです! その数、現在では70匹ほど。しかも猫のための広報官までいます。何ですかその夢のような職業は。エルミタージュに勤務して、猫についてプレスリリースを打つんですよ?「今日はお互いに毛づくろいをしていましたニャ」とか。なにが「ニャ」だ。
街自体もモスクワとくらべると昔の面影が多く残っており、散歩するのに楽しいところでした。雰囲気ものどかですね。ここでモスクワのクレムリンについても触れておきましょう。
モスクワの魅力というのは、鉄のカーテンの向こう側を訪れることにあると思います。冷戦が終わったと思いきや、長い間権力を握っているプーチンの暗黒武闘派ぶりは皆さんご承知のとおりです。富を独占するオリガークの重用や反体制ジャーナリストの暗殺、クリミア、ウクライナ、ジョージア、シリア等における強硬な軍事介入などなど。東欧だとハンガリーなど行きましたが、モスクワはぜんぜん緊張感が違います。
気の持ちようだけでなく、共産圏の特徴だと思うのですが、建物がどれもやたらと大きくて、カクカクッと、四角四角しているんです。直線! ビシ! カクッ!と。融通の利かない硬直した共産主義っぽいなーと感じました。
モスクワのさらに中枢にあたるのが赤の広場とクレムリンです。こちらも世界遺産に登録されています。クレムリンはロシア語で「城砦」を意味します。したがってモスクワ以外の場所にもクレムリンはあちこちにあります。
この場所、ふだんはニュースでしか見ないですよね。気分はスパイ映画です。近くには、保存されたレーニンの遺体があります。見ませんでしたけど。「宗教はアヘンである」と言ったのはマルクスですが、共産主義の総本山でもこうした行為を当然のこととして捉えていたというのが不思議だなぁと思います。「肉体などただの物質に過ぎない」とか言いそうなイメージなのですが。まぁ権威付けとかに利用したかったのでしょうけど。
赤の広場の片隅に立つのはテトリス! じゃなくて聖ワシリィ教会です。玉ねぎ型のドームは独特の色彩で、見てるだけでも楽しくなってくるデザインです。正教会系の建築はカソリックやプロテスタントとはかなり趣が異なるので、面白いですね。
おすすめ世界遺産ランキング 自然・絶景編
第一位 世界の屋根エベレストと生き神の少女
正式名称:カトマンズの渓谷、サガルマータ国立公園
所在地:ネパール
ネパールは世界最高峰エベレストをかかえる山岳の国。その首都カトマンズへはインド旅行中に、ガンジス川沿いの宗教都市バラナシから長距離バスを乗り継いでたどりつきました。国境では宿に泊まったとはいえ、実にまるまる二日間バスに乗ったのでかなり疲れましたねー。しかもバスというよりはバンといったほうが良いようなクルマだったので。
さらに、とてもではないですが道路状況が整備されているとは言えないネパールの山岳路。対向車とすれ違うときなど、ガードレールもなく、下を覗けば数十メートルという断崖の絶壁を、ぎりぎりのところですれ違うわけです。挙句の果てには落石で道の真ん中に1メートル以上ある岩石が鎮座していたり。陸路ではもっとも緊張を強いられた旅でした。
しかしいったん着いてみれば、カトマンズはインドよりも開放的な雰囲気で、外国文化の受容には寛容でした。欧米の音楽もかかっていますし、牛肉も食べられる、ビールも飲める。ヒンドゥー教徒が多数を占めるインドではなかなかこうはいきません。そもそもインドは先進国とはいえないまでも政治軍事文化いろんな面で強大国であり、自国文化だけで完結するのかなと思います。それに対してネパールはいまだにアジアでもっとも貧しい国のひとつとされており、エベレスト目当てに世界中から訪れる観光客は大切なお客様なので、これだけ開放的なのかもなと感じました。
そのエベレストですが、カトマンズからは見えません。わたしはトレッキング等も好きですが、さすがになんの準備もなく世界最高峰にアタックする気はなかったので、遊覧飛行を利用したのですが、これが大正解でした! 陸路でネパール入りしたので、なおさら空から眺めるヒマラヤ山脈には圧倒されました。白銀の大山脈は神々しく、地球という星がもつ力をまざまざと見せつけるような存在感を持っています。ある意味ではほかのどんな豪華な宗教施設よりも荘厳で厳粛な気持ちになったのを覚えています。
また、カトマンズにあるダルバール広場も見所のひとつです。チベット仏教のストゥーパではカラフルな五色旗がはためき、マニ車もあります。そして館のひとつには、クマリと呼ばれる生き神の少女が住んでいます。ネパールの守護神の生まれ変わりとされ、予言者としての能力をもつ少女の前では、国王さえもひざまずきます。少女は初潮がくるまでの間、その館で暮らしてさまざまな吉兆を占うのだとか。
退任したあとも国から特別手当がもらえるようですが、はたして小さい頃に閉じ込められて暮らすのが望ましいことなのかは考えてしまいます。とはいえ、一部で言われているように結婚できなかったり、悲惨な人生を辿ったりするようなことはないようです。
第二位 地下都市ギョレメ
正式名称:ギョレメ国立公園およびカッパドキアの岩石遺跡群
所在地:カッパドキア
地下都市。なんという甘美な響きでしょうか! ジュール・ヴェルヌが子供の頃大好きだったので、鍾乳洞を見にわざわざ南フランスに行ったりもしたのですが、さらにそこに暮らしていた人々がいたなんて、これは是が非でも見ておかねばなるまい!と、トルコの南東にあるカッパドキアを訪れました。
謎めいた奇岩がニョキニョキと生えていて、どこか別の惑星に来たような感覚を覚えます。キノコ型だけでなくドーム型、とんがり型、丸みを帯びた形など、バラエティに富んでいます。異様な風景で、見知らぬ土地でこんな場所で出くわしたらさぞ不気味であろうと思いました。実際、ギョレメには「見てはならぬもの」という意味があるのそうです。
地下都市の最初期の住人はまだ解明されていない部分も多いのですが、ヒッタイト時代に遡るといわれています。紀元前1800~1200年頃のこと。その後、ローマ帝国時代に迫害を逃れた初期キリスト教徒たちが移り住み、規模が大きくなりました。地下に何人ほど住んでいたと思いますか? 一説には実に6万人もの人々がここに暮らしていたそうです。想像を絶しますね。
細い通路を通って地下へ降りていくと、各戸の部屋だけではなく食堂や学校などのインフラ設備が整えられたあとがあり、実際の都市であったことがわかります。ローマの手から隠れねばならない身の上、料理をするときなど、煙が外に漏れないように、靄の出やすい時間帯に調理したとか。洞窟内には、敵の侵入を食い止める石型の罠まであって、過酷な暮らしであったことがうかがえます。わたしは「まぁインターネッツさえあれば地下でも生きていけるか……」と思いました。
ところでここで覚えているのは、近くの町をぶらぶら歩いていたら突然三十代の男に声をかけられ、て家に招かれたことです。お互いにまったく言葉が通じなかったし、多少迷ったものの、やさしそうな人ではあったので、ついていくとなぜか一家総出でお茶を出して歓迎してくれました。ミントがきいて少し甘めの透き通った紅茶、美味しかったですね。こういう経験は世界のあちこちでしていますが、どんなにきれいな景色よりも印象に残るものです。政情が安定したらまた訪れたい場所のひとつです。
第三位 神聖ローマ帝国の面影 ライン川
正式名称:ライン渓谷中流上部
所在地:ドイツ・ラインラント=プファルツ州
ライン川に沿って、中世の面影をとどめる城址や小さな村が点在しているのがライン渓谷中流上部です。ドイツ屈指の名城のひとつハイデルベルグから北上して、ケルンまで抜ける途中で立ち寄ることができました。ライン川中流のなかでも、マインツからコブレンツまで「ロマンティック・ライン」と呼ばれる一帯が世界遺産になっています。
まぁ正直いうと、景観という意味では、アルプスを通る登山鉄道レーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線とか、ハルシュタットの方がきれいではあるのですが。
▲ハルシュタット。対岸に駅があります
とくにオーストリアの山奥のハルシュタットでは、その日の最終列車を逃して、ひとり森に取り残され、宵闇がせまるなか猟銃の銃声が轟く……という非常に心細い思いをした、忘れられない場所なのではあります。しかし川を進むにつれて現れる古い城砦という物語性が魅力的なので、ラインの方をランキング入りとしました。
スイスに源流をもち、やがて北海へとそそぐライン川を下る形で進むと、右に左にと、小さな砦や城が現れます。このあたりは神聖ローマ帝国時代に重要な役割を果たした地域ですが、三十年戦争で疲弊した結果、そのまま放棄された城が多いと聞きます。無骨な城が好みの人にはたまりません! つまりわたしです。
ひとくちに廃墟とはいっても、それぞれバラエティに富んでいるので、見飽きません。ネズミ城、ネコ城と異名を取る隣接した城などおもしろいです。川幅がせまく航行の難所だった地点には、巨大な岩山ローレライがあります。美少女ローレライが船頭を誘惑して船を沈めるという伝説の舞台です。……まぁ、岩自体は見ても「ふーん」てなもんでしたが(笑)。
城の中には、建設時の姿をとどめて、ホテルやお店として開かれている場所もあります。カルカソンヌの項でも書いたように、ニュルンベルグのユースホステルはお城に泊まることができました。ほかにも、イギリスではマナーハウス、スペインではパラドールといった名前でお城や宮殿を改装したホテルがヨーロッパにはたくさんあるので、少々値は張りますが、一度くらいは宿泊されると良いと思います。
これにてランキング完了です!
「そんなに旅行して、お金はどうしてるの?」答え:マイルで行ってます
個人的なランキングにおつき合いいただき、ありがとうございました。終わりに、こんなことを取り上げてみます。よく聞かれるんですよね。わたしはただの平凡なサラリーマンなんですが、世界遺産100カ所、国の数では40以上を旅行していると言うと、「なんでそんなあちこち旅行に行けるの? お金はどうしてるの?」と。若い頃はそれこそ安いチケットを買ってバックパッカーしていたのですが、近頃ではほとんどマイルでまかなっています。
意外と知られていないのですが、一年間で20〜40万マイルくらいはたやすく貯められるんです。2016年は香港・インドネシア2回・カナダ・石垣島へマイルだけを使って旅行してきました。ただ、マイルの貯め方について話しだすと、これまたものすごく長い記事になってしまうので、興味のある方はこれらの記事をお読みください。
世界遺産巡りや海外旅行が好きな方にはぜひ参考にしていただきたいです。30万マイルあれば、ファーストクラスでの世界一周なども十分に可能ではあるのですが、なにせ時間がそれほど取れないのがサラリーマンの哀しいところです……。
まとめ 日本の世界遺産や、今後の予定
ちょっと長いですが、これまでに訪れた遺産のリストはこちらになります。
1. ストーンヘンジ(イギリス) | 26. 防塞線(オランダ) | 51. ヴェルサイユの宮殿と庭園(フランス) | 76. シンガポール植物園(シンガポール) | 101. チャンアン(ベトナム) |
2. バース(イギリス) | 27. ベルン旧市街(スイス) | 52. アルルのローマ遺跡とロマネスク様式建造物群(フランス) | 77. スコータイの歴史上の町と関連の歴史上の町(タイ) | 102. マカオ歴史地区(マカオ) |
3. ウェストミンスター宮殿(イギリス) | 28. スイス・アルプスのユングフラウとアレッチ(スイス) | 53. パリのセーヌ河岸(フランス) | 78. 古都アユタヤ(タイ) | 103. ルアン・パバンの町(ラオス) |
4. カンタベリー大聖堂(イギリス) | 29. レーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観(スイス) | 54. アヴィニョン歴史地区 (フランス) | 79. ムラカ(マレーシア) | 104. 自由の女神像(アメリカ合衆国) |
5. ロンドン塔(イギリス) | 30. コルドバ歴史地区(スペイン) | 55. 歴史的城塞都市カルカソンヌ(フランス) | 80. グレート・バリア・リーフ(オーストラリア) | |
6. キューガーデン(イギリス) | 31. グラナダのアルハンブラ、ヘネラリーフェ、アルバイシン(スペイン) | 56. シュリー・シュル・ロワール(フランス) | 81. 昌徳宮(韓国) | |
7. コーンウォル(イギリス) | 32. アントニ・ガウディの作品群(スペイン) | 57. ブリュッセルのグラン=プラス(ベルギー) | 82. 慶州歴史地域(韓国) | |
8. マリタイム・グリニッジ(イギリス) | 33. セゴビア旧市街と水道橋(スペイン) | 58. リスボンのジェロニモス修道院とベレンの塔(ポルトガル) | 83. 宗廟 (韓国) | |
9. ダラム城(イギリス) | 34. 古都トレド(スペイン) | 59. ポルト歴史地区(ポルトガル) | 84. 万里の長城(中国) | |
10. ブレナム宮殿(イギリス) | 35. セビリャの大聖堂、アルカサル、インディアス古文書館 (スペイン) | 60. ルクセンブルク : その古い街並みと要塞群(ルクセンブルク) | 85. 北京と瀋陽の明・清王朝皇宮(中国) | |
11. ドーセットと東デヴォンの海岸(イギリス) | 36. カタルーニャ音楽堂とサン・パウ病院 (スペイン) | 61. サンクトペテルブルク歴史地区と関連建造物群(ロシア) | 86. 頤和園(中国) | |
12. リヴァプール(イギリス) | 37. アーヘン大聖堂(ドイツ) | 62. モスクワのクレムリンと赤の広場(ロシア) | 87. 天壇(中国) | |
13. エディンバラ(イギリス) | 38. ハンザ同盟都市リューベック(ドイツ) | 63. メンフィスとその墓地遺跡-ギーザからダハシュールまでのピラミッド地帯(エジプト) | 88. 法隆寺地域の仏教建造物(日本) | |
14. ローマ歴史地区(イタリア) | 39. ポツダムとベルリンの宮殿群と公園群(ドイツ) | 64. カイロ歴史地区(エジプト) | 89. 古都京都の文化財(日本) | |
15. フィレンツェ歴史地区(イタリア) | 40. ケルン大聖堂(ドイツ) | 65. マラケシュ旧市街(モロッコ) | 90. 富士山(日本) | |
16. ヴェネツィアとその潟(イタリア) | 41. 古典主義の都ヴァイマル(ドイツ) | 66. アジャンター石窟群(インド) | 91. 原爆ドーム(日本) | |
17. ラヴェンナの初期キリスト教建築物群(イタリア) | 42. ライン渓谷中流上部(ドイツ) | 67. エローラ石窟群(インド) | 92. 厳島神社(日本) | |
18. ヴェローナ市街(イタリア) | 43. ベルリンのモダニズム集合住宅群(ドイツ) | 68. アーグラ城塞(インド) | 93. 古都奈良の文化財(日本) | |
19. バチカン市国(イタリア) | 44. イスタンブルの歴史地区(トルコ) | 69. タージ・マハル(インド) | 94. 日光の社寺(日本) | |
20. ジェノヴァ(イタリア) | 45. ギョレメ国立公園およびカッパドキアの岩石遺跡群(トルコ) | 70. デリーのクトゥブ・ミナールとその建造物群(インド) | 95. 琉球王国のグスク及び関連遺産群(日本) | |
21. ザルツブルク市街の歴史地区(オーストリア) | 46. ヒエラポリス-パムッカレ(トルコ) | 71. フマーユーン廟(インド) | 96. 知床半島(日本) | |
22. シェーンブルン宮殿と庭園群(オーストリア) | 47. トロイの考古遺跡(トルコ) | 72. 赤い城(インド) | 97. カトマンズ盆地(ネパール) | |
23. ザルツカンマーグート地方のハルシュタットとダッハシュタインの文化的景観(オーストリア) | 48. エフェソス(トルコ) | 73. ファテープル・シークリー(インド) | 98. サガルマータ国立公園(ネパール) | |
24. ウィーン歴史地区(オーストリア) | 49. ブダペストのドナウ河岸とブダ城地区およびアンドラーシ通り(ハンガリー) | 74. ボロブドゥール寺院遺跡群(インドネシア) | 99. ハノイのタンロン皇城の中心区域(ベトナム) | |
25. アムステルダムのシンゲル運河の内側にある17世紀の環状運河地域(オランダ) | 50. モン・サン・ミシェルとその湾(フランス) | 75. アンコール遺跡(カンボジア) | 100. ハロン湾(ベトナム) |
ヨーロッパが圧倒的に多いですが、世界遺産の登録数自体が、ヨーロッパは圧倒的に多いんですよね。世界遺産委員会は今後、登録数の少ない国の物件を増やす方針を示しています。
また、今回のおすすめランキングには日本の世界遺産はあえて入れませんでした。というのは、まだ言うほど回っていないのと、「日本の世界遺産ランキング」として別の記事にしたいなと思っているからです。できれば富士山にも登ってみたいですが……さて特訓しなければ。
今後見てみたい世界遺産という面では、中南米とアフリカになるかと思います。どちらもなにしろ遠いのがネックですねー。ペルーのマチュ・ピチュと、ナスカの地上絵。ブラジル・アルゼンチンのイグアスの滝。チリのイースター島。メキシコのテオティ・ワカン、チチェン・イッツァ……あげていけばきりがありません。
アフリカはセレンゲティやキリマンジャロなどの自然遺産にぜひとも行きたいのですが、それだけでなく、グレート・ジンバブエやエチオピアの文化遺産にもすごく惹かれるものがあります。
本当に、世界はまだまだ広い! 今回の記事が、これからどちらか旅行する方の参考になったらとても嬉しいです。長い長い記事を読んでいただき、ありがとうございました!
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モニターでも数万マイルが貯められます
100のうちの半分以上は行ったことがない場所で、ご紹介の内容は大変参考になりました。
特にカルカソンヌとラヴェンナはノーマークでしたので是非行ってみたいですね。
ちなみに私の大自然系おすすめベスト3はウユニ塩湖、イグアスの滝、ペリトモレノ氷河です^^
しんさん
ありがとうございます。カルカソンヌとラヴェンナ、少々知名度が低いですが素晴らしい所なのでぜひ行ってみてください。
南米は雄大でいいですよね!いつか行ってみたいです^ ^